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INTERVIEW インタビュー

3DCGの未来
〜CGアニメとメディアリレーション〜

まつもとあつし氏
【第34回/2019年7月号】
まつもとあつし(ジャーナリスト・コンテンツプロデューサー・研究者)

日本におけるフルCGアニメーション制作への理解と振興を目指す本連載。CGアニメと関係するさまざまなメディアのキーパーソンにお話をうかがっていく。第3回目はITジャーナリストのまつもとあつし氏を迎えた。大学でもコンテンツビジネスについての教鞭を執るまつもと氏は、アニメーション業界に産業としてのアプローチで研究を行ない、一般企業とマッチングさせるサポート活動を行なったりもしている。「働き方改革」が推進されていく中、アニメ業界・クリエイターにとってもロビー活動の重要性を語るなど、これまでにはない角度からの提言を伺うことができた。

【聞き手:野口光一(東映アニメーション)】
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積極的なロビー活動でアニメ業界の労働環境は変わる

東映アニメーション/野口光一(以下、野口):まつもとさんは『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書・2012)という著作があり、ASCII.jpやITmediaなどでITに関する記事も書かれていらっしゃったり、アニメCGに関する論文を著されていたりする一方で、現在大学で教鞭を執られるようですので、これまでのキャリアを改めて教えていだたけますか?

まつもとあつし(以下、まつもと):もともとはソフト会社で社会人生活をスタートさせ、そこからITジャーナリストになりました。当時は電子書籍ブームだったので、その分野を主に執筆していて、それと並行して、東京大学大学院情報学環に在籍してコンテンツやメディアの学際研究を行なっておりました。

野口:どのような研究をされていったのでしょうか?

まつもと:アニメーションの研究というと視覚表現や視覚心理の方面は進んでいるのですが、僕が研究したかったのは産業論としてのアニメだったんです。在籍した10年の間は、ちょうど映像のウィンドウがネットに変わるタイミングで、制作スタイルもどんどんデジタルへとシフトしていく状況でした。取材も重ねましたが、理論も押さえたかったので、そこを研究の分野としていきました。修士論文では日本で初めてインターネットをファーストウィンドウとして展開された『イヴの時間 Are you enjoying the time of EVE ?』をテーマにしました。研究領域としては先行研究が少ないのでそのものずばりの指導をしてくれる先生はまだ少ないのですが、幸い東大の情報学環はさまざまな学部から先生を招聘していて、多様な学問学術の分野から研究することができる環境でしたね。

            まつもとあつし氏

野口:産業論に絡めて言うと、まつもとさんの『生き残るメディア 死ぬメディア 出版・映像ビジネスのゆくえ』(アスキー新書・2012)で書かれていたように、日本は1990年に産学官でモノづくり立国からコンテンツ立国へと進めようとしてきました。ですが昨今、特にCGはモノづくりの方に回帰している印象があります。一旦海外にブランチを作って出ていったのが、コストやコミュニケーションの面で国内に産業が回帰している。一方で、「モノづくり」については2019年4月から労働基準法が改正され、「働き方改革」実現のために、クリエイターは仕事の仕方の転換を余儀なくされています。

まつもと:僕は「スマートワーク総研」という、オウンドメディアの運営にも関わっているのですが、そこで時々議論になるのがクリエイターの雇用問題です。「働き方改革」は裁量労働を拡大するような方向に進んでいます。そしてクリエイターという仕事は「高度プロフェッショナル制度」のような仕事に分類した方が働きやすいはずです。「自分が納得するクオリティまで時間を惜しまず働きたい」というのが、多くのクリエイターの本音であると思います。にもかかわらず、法で定められた下限の年収に届かないから、多くのクリエイターはこの制度を使うことができない。制度設計にあたっては俯瞰してエコシステムを設計をできる人がなかなかいない感じがします。

野口:産業ごとに誰かがやらなくてはいけないんですね。

まつもと:結論から言うと、アニメ産業はもっとロビー活動をやるべきだと思うんです。これまでマンガやアニメといった、ポップカルチャー系の産業は、あまりロビー活動をしていなかったのですが、マンガは昨今の海賊版対策を巡る著作権法の改正について日本漫画家協会の赤松健先生らが旗振り役となり、政党・政治家への意見具申=ロビー活動に力を入れるようになりました。それによって実際に政治が動くようになったし、法制度の設計に大きな影響を与えています。同じことがアニメのクリエイターにも言えると思います。ただクリエイターの環境改善といっても、個々人の意識にバラツキがあって、たとえば「新人のうちは身を粉にして働くべき」という人もいれば、「ハリウッドの作り方を学んでもっと効率的に」という考え方の人もいるでしょう。そうしたさまざまな意見を集約し、どこに着地させたら最適なのか、政策決定側からするとそれが見えないから手の打ちようがない。

野口:誰に聞いてどの意見を吸い上げればいいのかが分からないから、クリエイターにとって何が良い政策になるかも見えてこない。

            まつもとあつし氏

まつもと:そうした中、JAniCA(日本アニメーター・演出協会)が行なった「アニメーション制作者実態調査2019」は貴重だと思います。ただせっかくの網羅的な調査であるにも関わらず、収入面におけるセンセーショナルな数字を取り上げる報道ばかりが目立って、その数字をどう読み解いたら良いかという役目を果たしている人がまだ少ないのが現状です。

野口:どういう人がスポークスマンに向いているんでしょうか?

まつもと:僕はやっぱり新しい世代のプロデューサーの方だと思います。まずは喫緊の課題として現場の働き方の問題点や改善策を訴えてほしいのですが、あまり政策決定の場――例えば有識者会議などに呼ばれることがないのは残念です。そしてそういった機会には、例えば税制の問題を訴えていただきたいなと思います。過去の作品をどのように資産計上するのかといったこととか。これだけクールジャパン政策でアニメーションを重視しているなら、税制優遇とか特区作りとか、国や地方自治体にやっていただきたいことは山ほどあるはずなのです。

野口:VFX業界でいうと、カナダのバンクーバーで行われているような特区づくりを。

まつもと:そうですね。戦後復興期の話ですが、当時アメリカの自動車産業と対抗できるような護送船団的な枠組みを通産省が作ったからこそ、今日の日本の自動車産業があります。そういった取り組みを行う際、国が旗振り役になる一方産業側からの働きかけも同時に必要だと思います。アニメ業界は日々の制作に追われていますが、現状を変えるにはこのような取り組みも欠かせないのです。国がアニメ産業に関わった際にあまり良い思いをしなかった記憶を呼び覚まされる方もいるようで、拒否反応を示す方も少なくありません。でも、「業界としての意見・要望」はやはり作っていかないといけない。行政の方と話をすると窓口、すなわち「業界の意見を集約してくれる調整役が欲しい」と皆さんおっしゃいます。ロビー活動をするんだということを明確に目的とする団体があったほうが、今後、何かと役に立つはずです。

継続的な一般産業とのコラボビジネスを行なうために必要なこと

野口:産業について別の切り口からのお話を聞かせてください。まつもとさんは「アニものづくりAWARD」(※1)の選考委員も務められています。こちらはアニメという表現と他の企業などの取り組みを組み合わせる、昔からのスポンサードビジネスを現在再認識させるアワードとして非常に興味深いものです。

まつもと:まさに東映アニメーションさんが全日帯のアニメで長きに渡って一般産業とのコラボをされてきましたが、少子化が進んでこのカテゴリはシュリンクしてしまっています。一方で深夜アニメ帯の興隆があり、その分野ではまだ拡大できる余地はあるのではないか、と始めたのが「アニものづくりAWARD」です。ただ、アニメ業界の外にいる方々の場合、制作の仕方などについて共有できていないことが多々あります。たとえばアニメーションを使ったCMを作ろうと思っても、制作会社はすでにずっと先までラインが埋まっていてスタッフを確保できず、実現できなかったといったことが起きています。そうしたノウハウや情報共有を図るコミュニティが必要なんじゃないかと思います。「アニものづくりAWARD」を行ないつつ、その報告会や交流会を行なうことが重要で、1年に1回~2回そういった活動を行なっています。そこでは受賞企業にプレゼンをしてもらって、取り組みによって、どんな効果が得られたか? またどうやってその効果を測定したか、についてお話し頂いています。従来のマスマーケティングではCMを大量に投下して販売に結びついたというシンプルなモデルでしたが、アニメを用いたでターゲットはかなり絞られるので、どういう反応が出たらそのCMは成功なのかという指標を示すことが重要です。

            まつもとあつし氏

野口:数値化されてないと採用されないですよね。

まつもと:よく聞くのが、アニメ好きな担当者とそれに理解のある上司が通してCMはできたけれども、分析と評価ができないから継続できないというパターンです。一般企業の中での仕組みづくりと、継続的にアニメコラボを生む仕組みづくり、そしてアニメ産業側でもこの分野が表現としても面白いし、しかも儲かるということ知ってくれる人を増やしたいんです。

野口:既存の有名IPを使ってCM打ったりコラボをするということが思い浮かぶのですが、ここでやりたいのはそういうことではない?

まつもと:そうですね。実際に効果を上げているものはそういうシンプルなコラボばかりではありません。特に日本国内で日本のコンテンツを消費している人達というのはすごく目が肥えているし競争も激しい。これだけ新作が次々と出てきて、さらに旧作のIPとも争うことになると、そこで成功を収めるには何らかの仕掛けが必要になります。そこでは単なる認知ではなく、共感度をいかに上げるかが重要。元々のその作品の持っている魅力だけでなく、新たな映像表現やキャンペーン施策のなかで新しい物語や世界観を提示して共感・熱狂してもらえるかどうかがポイントになってきます。

野口:もはやストーリーだけではなく、プロジェクト自体を展開して育てていかないと買ってもらえない。

まつもと:例えば、その映像や物語に接触したユーザー自身がどういった変化をするかまで踏み込んで考えないといけないと思います。私は大学でコミュニケーション論も教えているのですが、従来は情報の発信者と受信者との関係にフォーカスが当たっていたけれども、現在はその情報に触れた消費者が何らかの影響を受け、それがさらに周囲にさまざまな変化をもたらすという、ソーシャルメディアの影響を考える必要が出てきています。アニメにおける2次創作の拡がりなんてまさにそれですね。逆に言えば、そこまで受け手に影響を与えるほどのコンテンツでないともはや効果が弱いとも言えます。企業の関心もそこにありますし、そこで価値を測ろうとしています。昔は子供向けの市場が十分大きかったから、企業の側も細かい分析をしなくても済んだのですが、現在はそこはかなりシュリンクしてしまったので、細かな消費者セグメントにあわせて小さいけれど強力なコンテンツをうまく組み合わせて展開しないといけなくなった。そこで分析・設計というのがより重要になってきたというわけです。

野口:どう着地するかわからないけど何かやりましょうとやりつづける。普段は出会わない企業さんとの交流の場があるというのは非常にありがたいです。

まつもと:今年も5月の徳島の「マチ★アソビ」で表彰式を行なったのですが、全国から10社以上来てくれたんですよ。企業さんの熱量はすごく上がっていますね。表彰を受けたいし講評コメントも生で聴きたいという方も本当に多く、企業側のニーズの高まりを感じます。また東京で報告会をやると受賞した企業だけではなく、そこに関心がある企業さんも沢山集まって、さかんに交流が行われます。一方で、アニメ会社側の参加がまだまだ少ないんですよね。普段テレビや劇場作品を作っている制作会社さんがフラっと立ち寄っていただけるような場を作ることが今後の課題としてあります。

まつもとあつし氏

(※1)「アニものづくりAWARD」
2017年に発足した団体。一般企業によるアニメやマンガ、キャラクターとのコラボ商品、広告プロモーションでの活用などを表彰する。運営を日経電子版らが行い、アニメビジネス・パートナーズフォーラム、映像産業振興機構(VIPO)などが後援する。
https://animono.jp

CGアニメーションの産業的な応用とその可能性

野口:まつもとさんが書かれた論文「アニメの制作プロセスとビジネス構造を変化させる3D技術-『蒼き鋼のアルペジオ –アルス・ノヴァ-』『正解するカド』『けものフレンズ』が示した3つの方向性」(2018;アニメーション学会Vol.19 No.2)についてお聞かせください。あの論文で共感したのがCGアニメは従来の作画とは別のワークフローを構築し、作業の効率化を図っているけれどもまだ改善の余地があると言及したところです。

まつもと:例えばサンジゲンさんはワークフローのアップデートにあわせて、制作システムをチューニングし、敢えて打合せスペース極力減らして、会議も全部オンラインで行なったりして極限まで効率を上げることを目指しています。こだわっているのは素材と工程の管理をさらに高めて生産性を上げ、クオリティを高めること。これからのセルルックCGはその進化が楽しみです。

野口:『BanG Dream!』(※2)なんて、キャラが多いのにもかかわらず安定しているし、傍目に見るとものすごく効率的に作られているのですから、もっと世の中の注目を集めても良いと思います。

まつもと:その観点で言うと、論文でも触れましたが、『けものフレンズ』のたつき監督がすごいですね。あの作品はCGをやっている人からすると粗い部分も目につくかもしれないけれど、卓越した演出力で一般のファンのハートをがっちり掴んでいる。僕自身、『ケムリクサ』はもう3度見直しましたが、その度に新たな発見がある。大規模な環境から、個人スタジオに至るまでにいろんな取り方ができ、クリエイティブも多様になってきているから、もうちょっとで「国民的セルルックCGアニメーション」が誕生するのではないかと考えています。

野口:将来の可能性で言うと、VRの分野もまだこれから成長の余地を大きく残していると思います。CGとの相性の良さはもちろん、ゲームやVTuberへも派生がしやすいですし。

            まつもとあつし氏

まつもと:キーワードは先ほどのCMの話とも関連しますが「世界観」や「物語」だと思います。VRはそれらをどう提供できるのかが鍵ではないでしょうか。VTuberはリアルタイムCGを使って、講談とか漫才のようなスタイルで広い意味でいう物語性を視聴者に提供していると思うんです。VRはそんな物語性をどのように組み込んでいくか、まだまだ苦労があると思います。ただ、最終的に没入感という点で既存の映像に比べると格段に高いので、緻密に設計された物語性とは相性が良いはずなんです、ただ作る上であまりにコストがかかるし、方法論が確立されていない。VRミステリーアドベンチャーゲームの『東京クロノス』とか、『狼と香辛料VR』のようなチャレンジによって今後、様々な取り組みが実を結んでいくはずです。あと、僕が注目しているのはライブです。実写ならライブビューイングをVRで行なったり、CGキャラクターなら『BanG Dream!』のようなバーチャルライブはずっと需要があるはずだと思っています。

野口:あるVRライブではリアルのチケットの4倍くらい売れたという話を聞いたことがあります。キャパの問題もありませんし、たしかにVRのライブに可能性は広がっていますね。

まつもと:演者の近くで見られるとか、今後ノウハウが確立されていけばむしろVRで見る方がバリューがあると思ってもらえる方向に行くと思うんです。そうなると実写よりもCGの方が仕掛けが効果的にできますから、CGのバーチャルライブが進んでいくことに期待しています。興業イベントという点ではVRアニメを作るよりもビジネススキームは確立しているわけですから、そこが軌道に乗れば継続可能なライブ産業的なものになっていくと思うんですよね。

野口:それがアニメと密接に関われば表現としてプラスになっていける。

まつもと:セルルックアニメとの相性も良いはずだと思います。あとは技術と視聴する側の慣れの問題。少なくとも日本のコアなファンはその点でいうと受容力は高いと思っています。『ケムリクサ』(※3)でファンはあれだけ物語にコミットできるわけですから。もちろんそこには優れた演出が必要となってきますが、見栄えがハードルになることは少ないと思います。

野口:最後に現在のお仕事についてお話を聞かせてください。新潟の敬和学園大学国際文化学科でコンテンツやメディアを教えられているそうですね。

まつもと:国際文化学科情報メディアコースというところで教えています。新潟は県としても力を入れるポップカルチャーコンテンツ=アニメ、マンガ、ゲームと大学での学びがリンクすることを期待されているのだと思います。大学生相手ですから、まずベーシックなところから、モノを作るということ、最後まで設計してプロデュースをするとはこういうことだと教えて、実地で行なわせてみたりしています。

野口:そうやって地方がコンテンツをきっかけに盛り上がる可能性がある。

まつもと:新潟にはプロダクションI.Gの新潟スタジオもありますし、お隣の富山にはP.A. WORKSもあったりします。P.A. さんはあれだけのオリジナル作品を地方に本社を置く制作会社でも作れるのだと証明しているわけでありますし、アニメは雇用を生む産業であることも示しています。新潟の学生と話していると、彼ら・彼女らは驚くほど地元志向なんです。その意味で地元にスタジオがあれば人手不足も解消できるし、お互いに良い関係が作れる。そして巡り巡ってヒット作が生まれてほしい。やっぱり、国民的ヒット作が出ると、ロビー活動ってしやすくなるんですよね。現状、政治家に対する共通言語って、未だに『鉄腕アトム』を起点としたものなんです。そういう誰も知ってる作品が現在の作品に生まれるとコミュニケーションがしやすいはず。近年も『ソードアート・オンライン』と総務省のコラボがありましたが、さらに国民的に受け入れられる作品が出てきてほしい。そのための企画や広報など、僕自身もさまざまな形でお手伝いをしていきたいと思っています。

(※2)『BanG Dream!』
美少女たちのバンド物語を描くメディアミックスプロジェクト。サンジゲンが第2期(2019年1月〜)、劇場版(2019年9月)、第3期(2020年1月~)の制作を務める。

(※3)『ケムリクサ』
2019年放送。『けものフレンズ』のたつき監督による作品。オリジナル企画作品でも同様に人気を獲得した。

まつもとあつし氏取材
まつもとあつし
ジャーナリスト・コンテンツプロデューサー・研究者
ASCII.jp、ITmedia、『ダ・ヴィンチ』などに寄稿。著書に『コンテンツビジネス・デジタルシフト』(NTT出版)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)など。取材・執筆と並行してコンテンツやメディアの研究を進めている。敬和学園大学国際文化学科准教授/法政大学社会学部・専修大学ネットワーク情報学部講師
Supported by Enhanced Endorphin
INTERVIEWER : 野口光一(東映アニメーション)
EDIT : 日詰明嘉
PHOTO : 弘田充
LOCATION : 東映アニメーション

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