小池万瑠美(以下小池):今日はよろしくお願いします。まずは1つ目の質問をしたいと思います。毎月10日にCGWORLDが発売されていますが、何人ぐらいでどういったスケジュールで作業されているのですか?
沼倉有人編集長(以下沼倉):現在は、自分を含めて内部のスタッフ5名で月刊誌とCGWORLD.jpの編集業務を行っています。ただ、副編集長は僕が無理を言ってWORKS別冊書籍部の業務と兼任でお願いしていたりするので内部だけではとても手が回りません(苦笑)。 というわけで、外部パートナーさんに連載の編集などは手伝っていただいています。それでも手が回らずにいるため、社員、アルバイト、外部パートナーを問わず編集スタッフ絶賛募集中です(笑)!
小池:(笑)。
沼倉:スケジュールとしては、月刊誌は毎月10日(※日・祝の場合はその前日)発売なので、その2週間ほど前の前月25日頃に校了というのが理想ですね。現状は数日ずれ込むことが常態化しています(汗)。 ただ、自転車操業はできるだけ避けたいので2号先まで企画を考えていくようにしています。 とは言え、CGWORLDは情報誌として鮮度が求められる一面もありますし、諸事情で企画がボツになったりで不測の事態は日常茶飯事なので悩ましいですね。。。 CGWORLD.jpについては、Webメディアということでできるだけフットワークよく活動したいと思っているのですが、どうしても月刊誌業務のウェイトが大きいため、スピードやボリューム(記事の数など)で勝負するのは厳しいため、ニッチな媒体であることを逆手にとって多少スピードは落ちても独自性にこだわっています。
小池:編集長というは、どのようなお仕事をするのでしょうか?
沼倉:僕の役回りは、一言で言うと「雑誌としての方向性を決めること」です。インターネットの普及によってCGに限らず様々な情報が世界中で毎日発信されています。そうした中で、プロアマを問わずCG・映像制作をされていらっしゃる方々、つまりCGWORLDメイン読者の方々にとって有益な情報を見つけ出し伝えていく、情報を取捨選択して一定のボリュームにまとめる、整理する(=編集する)ことが、雑誌メディアの役割だと思っています。
中村桃子(以下中村):具体的にはどのような感じで?
沼倉:具体的には、どんなテーマの特集を組むのか、そのときの取材や構成の切り口をどうするかといったことを決めて、実際に記事制作をしてもらう担当編集にオリエンテーションします。 今年1月発売号(174号)では世間的な関心も高い3Dプリンタを用いたデジタル造形に特集を実に3年ぶりに実施したところおかげさまで在庫切れになりました。 担当編集は、僕が決めたテーマに応じて具体的に取り上げる作品や製品などのサービスをどうするか、誰に執筆をお願いするか、そして取材内容や原稿を元に具体的な誌面レイアウトを決めていき、外部のライターさんやデザイナーさんにご協力して頂きながら実際に記事を作成していきます。そして出来上がった記事をチェック、問題がなければ校了するという感じです。 ただ人手不足なので、僕も自ら編集実務を行うことが……多いです(汗)。 あと、雑誌としての顔つきを決めるという意味では、表紙は毎号僕が担当しています。
中村:CGの月刊誌としてはCGWORLD誌のみと聞いていますが、何年の歴史があるのですか?また日本で唯一ということで影響力は計り知れないのですが、苦労されている点とかなんでしょうか?
沼倉:CGWORLDは今年6月で創刊15年になります。CGWORLDが創刊した当時は、“第一次美少女CGキャラ”ブームなどと言われて、テライユキ(※1)や伊達杏子(※2)といったある意味で初音ミクの先祖にあたるCGキャラが数多く誕生しました。
1:テライユキ
1998年に漫画家くつぎけんいち氏が生み出したキャラク ターで、バーチャルアイドルの先駆け的な存在。現在もイーフロンティアからPoser用モデルデータが販売されている
http://graphic.e-frontier.co.jp/poser/figure/terai-fig.html
2:伊達杏子
芸能プロダクション「ホリプロ」が開発したバーチャルアイドル。1996年に世界初のバーチャルアイドルとしてデビューした後、デザイン変更を経て2007年頃まで活動が続けられた
(参考)http://digitaldna.jp/article/magazine.html
小池:そんなにたくさんあったんですか!
沼倉:ですが、その後は段々と減っていき数年前からひとり旅が続いています(苦笑)。 ですが、CG自体はゲームや各種映像コンテンツにとって必須の要素になりましたし、現在はデジタル・アーティストやエンジニアの方々が自らブログやTwitterなどのSNSを通じて日々情報や意見を発信されているのでそれはそれで自然なことなのかもしれませんね。
中村:私もTwitterをやってます!
沼倉:ただ、海外には北米を中心に3DCGやVFXに関する専門メディアが多くありますし、最近ではデジイチ動画撮影の浸透により、広告グラフィックの方がCGや映像制作を手がけたり、3Dプリンタが低価格になってきたことでアナログ造形の方がCGモデリングを始めたり、はたまた初音ミクのミュージックビデオが牽引するかたちで個人の方がMMDなどを利用してCGアニメーションをつくるといった具合に改めて 3DCGの需要が高まりつつあるので、遅かれ早かれ競合メディアが新たに誕生するだろうと思っています。 僕らとしても月刊誌を柱にここまで続けてこれたので、そこはしっかりと守りつつ、CGWORLD.jpをもっと活用していくことや電子書籍展開も考えています。 また、世間一般的に映画雑誌や音楽雑誌のような、フィルムの時代からそしてレコードの時代から30年以上ずっと続いている雑誌とかありますよね。それを考えるとCG雑誌として15年というのはまだまだ歴史が浅いと思ってしまうので、これからも頑張らないといけないと思います。
小池:どうやって特集や記事のネタを考えるのですか?
沼倉:ケースバイケースですが、大前提として僕らはデジタル・アーティストではありません。3DCG表現や技術について表面的に知っているだけなので、現場の方々や識者の方々のご意見・ご要望を聞いていくことが欠かせません。言葉(文字)にすると仰々しいのですが、要はできるだけ様々なイベントに顔を出し、できるだけ多くの作品を観て、できるだけ多くの人のお話を聞くということを繰り返すことが大切だと思っています。 ただし、ITが浸透した現在は情報が氾濫しているのでやみくもに情報を追ったのではとても対応しきれないので、うまく言えないのですが、自分の中で「半年後に日本のCG業界で何が起きるだろうか?」とか「これが流行っている理由は何か?」といった仮説を立てた上で、そこから企画を考えていくようにしています。そういったある程度腰を据えた記事作りができるのは、ワイヤー(通信)系の媒体ではない月刊誌を柱にしたCGWORLDの強みかもしれません。
中村:不可能だけど、こういった記事を掲載してみたいとか、周りに何言われるかわからないけどこんな企画やってみたい!というのはありますか?
沼倉:いろいろありますよ。例えば、世界的メジャーなCGの大作をCGWORLDだけで独占取材するとか、創っている人のそれぞれのこだわりを深く掘り下げ一冊まるまるひとつの特集をするとかですかねぇ。 また、美少女キャラの特集とかもやってみたいです。実際に90年代後半のCGブームも美少女キャラが牽引したというのはそうしたニーズがあってのことだと思うのと、やはり魅力的な異性を描けるというのはセックスアピールを適確に捉えているということだと思うので、在野にいらっしゃるであろう天才たち に話を聞いてみたいというのは正直あります。
小池:ワークスコーポレーションで発売している雑誌は他にどのようなものがあるのでしょうか?
沼倉:ええとですね、まあ色々とありまして……ワークスコーポレーションとして現在刊行しているのはCGWORLD一誌だけです(汗)。ただし! 30年以上の歴史をもつハリウッド映画のVFXマガジン 「Cinefex」 の日本版 の販売は、実はうちでやっているんですよ。以前はDTPやプロダクトデザイン(CAD)の雑誌なんかも出していたのですが、そもそものところで紙媒体とい う存在自体がパラダイムシフトを迎えていることもあって、それらのジャンルは書籍やWebなどを通じて情報を発信しています。
小池:なるほど〜。
沼倉:ただ、電子化は不可逆のトレンドなので、そうした新しいかたちで新たな雑誌を起ち上げられるはずですし、僕自身も新しい雑誌メディアをいつかは創りたいと思っています。それがどういったものになるのか今はノープランですが(笑)。だけど、せっかくものづくりに携わっているので、いくつになっても、家族など守るべき存在ができても、チャレンジ精神は失いたくないですね。と、なんだかえらそうに言ってしまいましたが実状はグループ魂の『嫁とロック』(参考:http://www.sonymusic.co.jp/?70003371_KSCL-1069&70003371_KSCL-1069_01VFL )です(苦笑)。
中村:雑誌の仕事をはじめたきっかけはなんでしょうか?
沼倉:結論から言ってしまうと、“おしゃべりで半端者”だったからに他ありません(苦笑)。 僕は小学生から中学生にかけて6年ほど父親の仕事の都合によりシンガポールで過ごしました。そうした経験から将来は世界を舞台に仕事がしたいなと、大学は商学部だったことからトーメン(現・豊田通商)という当時業界7位だった総合商社に就職したのですが、元々が運動部の万年補欠であったのに加えて、高校から大学時代は深夜の情報系バラエティを夢中で観ていたというサブカル(今では死後かもしれませんね)好きだったことから、どうしても映像制作に携わりたいという思いを捨てきれずに社会人3年目になるタイミングで東北新社という映像制作会社に転職したのです。商社でお世話になった方々には社会人としての素養を教えていただき本当に感謝していますが申し訳ないことをしましたね(汗)。
小池:色々とあるんですねえ。
沼倉:翻って、映像編集は専門職なので、編集を追求する、その道を究めるという意味ではとても楽しいですしやりがいもあったのですが、元々が半端者なのに加えて、とても優秀な先輩たちがすぐ近くにいたこともあり「俺がやらなくてもいいな」という結論に達しました(笑)。 では、この経験を元に何ができるかな、企画やプロデュース的な仕事もしてみたい……ということで、29歳のときにダメもとで広告、ゲーム、映像、Webなどなどマスコミやコンテンツ周りで求人を色々と探してみて、手当たり次第に受けるということを数ヶ月続けました。 するとあるとき、とあるオンライン転職サービスを通じて、ワークスコーポレーションから CGWORLD編集スタッフのオファーメールが届いたのです。そのメール文をみて直ぐに、「これは俺の編集というのを映像ではなく雑誌と勘違いしているな」と分かったのですが(笑)、「編集は編集でも大分ちがうのですが……」と返信したところ、「なるほどそうでしたか。ですが、CGWORLDは映像クリエイター 向けの雑誌ですしせっかくなので一度会いましょう」と予想外のお返事をいただきました。その後、2回の面接と筆記テストを経て、晴れて入社したわけですが、我ながら奇跡だと思います(笑)。
中村:たしかに、初めてのケースです(笑)。
沼倉:雑誌編集は情報収集して仮説を元にひとつの記事に、特集にまとめるというのが基本スタイルですが、とても性に合っています。多分、もっと純粋に雑誌編集を志している方々からするとものすごく邪道で怒られそうですが、まあ自分みたいな人間がいてもいいではないかと(苦笑)。今の仕事はとても楽しいです。決して楽ではありませんし、家族には迷惑かけっぱなしですが、公私にわたり応援してくださる人たち のためにも良い仕事をしていきたいなと思っています。
小池:今後この仕事を目指したい人へのアドバイスをいただけますか?
沼倉:非常に奇特な経緯でCGWORLDの編集をしている者としては、アドバイスなんておこがましいのですが、何かお話しできるとしたら「一見、遠回りでもいつかな役立つときがあるので、学生、社会人を問わずいつも新しいことに挑戦してみること」そして「広く浅くでも深く狭くでもかまわないので好奇心旺盛でいること」この2つの精神は人生を楽しむ上で役立つのではないでしょうか?
小池・中村:今日は本当にありがとうございました。また1つ、業界を深く知る事ができましたし、楽しかったです。
小池万瑠美:
「今回は『取材』をしている側の方に取材!という事で、私の心持ちとしてはいつもと違う緊張感の中始まりましたが、しょっぱなから沼倉さんの表現力は底なしに豊かで、笑いの絶えない取材でした。なのでコミュニケーションが何においても1番大事だというお話に、説得力を感じました。個人的にも勉強になる、とても有意義なインタビューのお時間でした!ありがとうございました」
中村桃子:
「今日はCGWORLD編集部さんを取材させて頂き、沢山の驚きと発見がありました。 雑誌が出来るまでの過程や CGWORLDの歴史、CGの進化過程など とても興味のわくものばかりでした。 編集長の沼倉さんも楽しく気さくな方でした。そして私も沼倉さんと同じく『コミュニケーション力』はすごく大切なものだと思います。また自分の目標の為に必要なものはコレだと決めつけず幅広く色んなことに興味をもつことも大切だと感じました。そして最後に今日頂いた雑誌177号! これから目指す人も対象として書かれているため、雑誌の中身の作業過程も細かく丁寧で、CGについての雑誌を初めて読むも分かりやすいのではないかと思います。 取材させて頂き本当にありがとうございました。とても貴重な経験になりました。」
CGWORLD編集部取材イントロダクション:(38秒)
音楽:井上忠彦
ワークスコーポレーション/CGWORLD編集部
ワークスコーポレーション :事業内容
1. デジタルエンタテインメント映像情報誌「月刊CGWORLD」(1998年6月29日創刊)ほか、グラフィックデザイン・Web・コンピューターグラフィック/デジタルビデオ(映画・ゲーム・CM・TV)などデジタルクリエイションに関する雑誌・書籍の発行
2. イベントの企画と運営
3. DTP検定、Web検定、プロダクトデザイン検定の運営・管理
沼倉有人(Arihito Numakura)
(株)ワークスコーポレーション「月刊CGWORLD」「CGWORLD.jp」編集長。(株)トーメン (現(株)豊田通商)にて、エネルギープラントなどのインフラ営業に携わった後、一念発起して映像業界へ転身。(株)東北新社CM本部所属のオフライン・ エディターとして、CMやVPの編集に携わる。主な参加作品は、YKK ap『EVOLUTION』VP(2004年度文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞)、トヨタ『アイシス』シリーズ、第一生命『第一でナイト (2代目ファミリー)』シリーズ、スキマスイッチ『君の話』MVなど。2005年10月から現職。
株式会社ワークスコーポレーション
〒102-0074
東京都千代田区九段南1-5-5 Daiwa九段ビル
TEL : 03-5215-8666