日本におけるフル 3DCG アニメーション制作への理解と振興を目指す本連載。今回ご登場いただくのは、映画監督/CGディレクターの八木竜一氏だ。同氏は株式会社 白組において、CM、映画、ゲームムービーなどの 3DCG 制作を長年にわたって手がけてきた。『friends もののけ島のナキ』(2011年)では山崎 貴氏との共同監督に挑戦し、独特の世界観や活き活きとしたキャラクター表現が多くの観客の共感を集めた。あらゆる年齢層の観客が楽しめる CG アニメをつくりたいと語る八木氏に、過去の経験によって培われた制作スタイルや演出時のこだわりを語ってもらった。
聞き手:野口光一(東映アニメーション)
最終目標は、誰もが楽しめる CG アニメをつくること
東映アニメーション/野口光一(以下、野口):八木さんが共同監督をなさった『friends もののけ島のナキ』(以下、ナキ)は、国産のフル 3DCG アニメ映画としては抜きんでた興行収入(※1)を誇っておられます。『ナキ』公開後の2012年には様々な CG 映画が公開されましたが、いずれも『ナキ』にはおよびませんでした。寂しいことに、国産 CG 映画の成功事例は『ナキ』だけといっても過言ではない状況が続いています。そこでぜひ、単刀直入に『ナキ』の監督に話を伺ってみたいと思い、このインタビューをお願いした次第です。
※1:抜きんでた興行収入
『friends もののけ島のナキ』は、日本での公開日である2011年12月17日からの37日間で、観客動員累計100万人、興行収入約14億円を突破している(最終的な国内興収は14.9億円※日本映画製作者連盟発表資料より)。さらに韓国でも同年12月29日から公開され、25日間で観客動員累計50万人、興行収入は日本円で約2.6億円を突破した。
八木竜一(以下、八木):よろしくお願いします。多くの方から『ナキ』を評価してもらえたのは嬉しいですね。ただ、僕の最終目標は子供からおじいちゃんやおばあちゃんまで誰もが楽しめる CG アニメをつくり、もっと多くの方に観ていただくことなので、まだまだ道半ばではあります(笑)。
野口:確かに『ナキ』は子供から大人まで幅広い年齢層をターゲットにしていて、親子で鑑賞できる映画になっていましたね。八木さんは CG アニメというジャンルが確立する以前から「CG アニメは、まだまだ食べず嫌いの方が多いジャンルです」とおっしゃって、作品をつくってこられた。その点は特に凄いなと感じていました。
八木:海外産の CG アニメのなかにはヒットした作品が沢山ありますよね。CG でつくった映画であっても、感情移入できる作品であれば、日本のお客さんも観てくれると思うのです。だから『ナキ』では企画の初期段階から、できるだけ幅広い年齢層に楽しんでもらえる大衆娯楽に仕上げることを目標にしていました。
野口:『ナキ』の話の前に、ぜひ八木さんの仕事のルーツを伺っておきたいのですが、そもそも何の職種で白組に入社なさったのでしょうか? 当時の映像制作では、まだまだ CG は手軽に使える手段じゃありませんでしたよね。
八木:テクニカル・ディレクターのアシスタントという位置付けでした。今の職種でいえば、特撮監督の助手といった方がイメージしやすいでしょうね。CMや映画向けに色々なアニメーションをつくっていました。アニメーションって、セルアニメ以外にも色々な種類がありますよね。例えば、今だったら CG のパーティクルで表現するような砂嵐を、ひたすら点描を打って表現したりね(笑)。あの時代に幅広い表現手法を経験させてもらいました。
野口:ひょっとして、16ミリフィルムの CM も経験なさっていますか?
八木:やっていますよ。テレビ CM では最初にフィルムを経験して、それから D1 の時代を経て、フルデジタルになりました。フィルムだと、例えば光を1個合成するのにも凄く時間がかかっていましたね。光の強さや露出を悩みながらテストピースを撮影して、現像に出して返ってくるまでに 3 日くらいかかる。そのテストピースというのが黒バックに光だけの素材でね、それを見ながら本番の値を決めて合成するのです。その後専用の試写室で確認するわけですが、CM の場合は 2 回くらいしか上映してもらえない。15秒間、もの凄く集中しながら見て、その場で気になった部分を指摘しなければいけない。大変な世界でしたよ(苦笑)。
野口:フルデジタルが当たり前の世代には想像できない世界でしょうね。
八木:だからコンピュータが導入されたときには興奮しましたね。すぐに結果が返ってくる。「これは便利だ、素晴らしい!」と思いました。加えてデジタル化したことで、凄く細かい部分まで確認できるようになりましたからね。
野口:だから、どんどんデジタルにシフトしていったわけですね。
八木:そうです。最初に導入したNECのPC-98とPersonal LINKS(※2)は難しくて使いこなせなかったのですが、その後に登場した Macintosh と Photoshop 1.0 や After Effects 1.0 は GUI で操作できたのでスタッフの食いつきが良かったですね。当時の白組には僕たちの班とは別に CG 専門班もいて、彼らは Power Animator などのハイエンドの 3DCG ソフトを使って高度な処理をしていたのですが、僕たちも Strata 3D を導入して CM 用の立体文字といった簡単な素材は自前で制作するようになりました。その後は Windows PC に移行し、LightWave 3D を経て、3ds Max を使うようになり今にいたります。段階を踏んで経験していくことで、最初は難しいと感じたポリゴンの概念も理解できるようになりましたね。
※2:Personal LINKS
株式会社トーヨーリンクス(現、株式会社IMAGICA)によって開発された、国産のハイエンド3DCGソフト。
野口:そして今では 3DCG が八木さんの必須ツールになっている。
八木:ええ。僕のような絵が描けない人でも、3DCG というツールを使えば正確なパースの絵がちゃんと表現できますからね。
野口:絵が描けないというのは意外ですね。過去の作品では、絵コンテを描かれていませんでしたか?
八木:絵コンテくらいしか描けないのですよ(苦笑)。絵の場合「こっちのカメラアングルから見た方が格好良いんじゃない?」って後から思っても遅いですよね。でも CG なら簡単にアングルを変えられる。最初から格好良い絵を描けなきゃいけないという負担が CG にはないのが良いですね。
野口:では八木さんの場合、絵コンテはラフと割りきって、アニマティクスやプレビューでレイアウトを決めるのでしょうか?
八木:そうです。2D アニメでは絵コンテが設計図になる場合が多いと思いますが、僕にとっての設計図はプレビューですね。
しっかり試行錯誤しないと、後で苦労することになる
野口:3DCG を本格的に導入された直後は、CM や映画の制作が中心だったのでしょうか?
八木:そうですね。CM や映画はもちろん、ミュージックビデオ、自動車メーカーなどのPV、イベント映像など、色々な仕事をやってきました。そんななか 2000 年頃からゲームムービーの仕事が増えてきて、『鬼武者2』(2002)や『バイオハザード0』(2002)などでは CG ディレクターをやらせてもらいました。今のように作品の監督をやりたいと最初に思ったのが、この時代なのですよ。それまでは「CG ディレクターとしてやっていけたら面白いだろうなぁ」と考えていたのですが、「作品全体をまとめる役目を担いたい」と明確に意識するようになりました。
野口:CG ディレクターを経験して、さらにその先を目指したくなったわけですね。ちょうどその頃は、白組としても TV アニメや映画などストーリー性のあるものをつくろうという方針に変わっていった時代ですよね。
八木:ゲームムービーで表現されるのは、映画でいえばハイライトシーンに入る直前なのですよね。ハイライトはユーザーがプレイするから、ムービーでは表現させてもらえない(苦笑)。いわば主食を彩るおかずのようなものです。いずれは主食をつくることにも挑戦してみたいという意欲が出てきたのです。
野口:白組は八木さんや山崎さんをはじめ、多くの演出家や監督を輩出していますよね。かつて八木さんが感じたような演出志向のムードが社内に根づいているのでしょうか?
八木:そうですね。若い世代の人たちも、いずれはやりたいといっています。僕自身、白組に入社した当時は演出をやろうとはまったく考えていなかったのですが、「あぁ、僕はこういうのがやりたかったんだな」と後から気づきました。
野口:そして『うっかりペネロペ』(2006)で演出デビューなさったわけですね。
八木:『うっかりペネロペ』は 1 話 5 分の短編でしたが、全26話を合わせれば 130 分、映画 1 本の尺に相当します。CG アニメのつくり方を試行錯誤するうえで、良いステップになりました。作画アニメの場合、制作システは既に完成しているので、それを使って何をつくるかだけに集中すれば良いですよね。でも CG アニメの場合は、制作システム自体を自分たちで組み立てなければいけない段階です。
野口:さらに表現のタッチも考えないといけませんよね。『うっかりペネロペ』の場合は、絵本のような暖かみのあるルックを開発なさった。
八木:ええ。だから最初に短いテスト映像をつくって、それを効率良く制作できるラインを模索しました。結構、工業的な考え方ですよね。こういったワークフローやパイプラインは、毎回改良を重ねています。『うっかりペネロペ』の時代と現在とでは、まったくちがうやり方をしていますよ。今は海外プロダクションの一般的なやり方を参考にしていて、大きくアセットとショットに分けています。シーン内の要素を形にするのがアセットで、それらに動きをつけてカットを仕上げるのがショットです。
野口:『鬼武者2』や『鬼武者3』(2004)の時代は、白組を含めた多くのプロダクションがいわゆる“根性”で問題を解決していたように思いますが、今はそうでないと?
八木:根性を使ってやってしまうのは簡単なんですよね(苦笑)。寝ないで頑張れば良いんですから。でもそれじゃ長続きしないのですよ。できるだけ根性は使わないで、みんなが楽に良いものをつくれるようにしたいのです。実践してみて、初めてわかることもあるので全てが計画通りとはいきませんが、例えば『ナキ』の場合、スタッフが根性出して頑張る機会は少なかったですよ。
野口:『ナキ』の制作でも、アセットとショットに分かれたパイプラインを採用したのですか?
八木:そうです。ただ、アセットやショット制作に入るまでの準備段階が長かったですね。山崎さんが最初に A4 用紙 2〜3 枚の凄く面白いプロットを書かれて、そこから決定稿の脚本をつくるのに 2〜3 年を要しました。東宝の川村元気プロデューサーや山崎さんたちと何度も打合せを重ねて、最終的には20稿くらいの脚本をつくったのです。キャラクターの性格によってリアクションが変わってくるので、色々なパターンを試しましたね。その後は 3〜4 人で 1 年くらいかけてパイロット映像をつくりつつ、画の方向性やつくり方を試行錯誤しました。そして次の 1 年でデザインやレイアウト、アセット、最後の 1 年半でショットをつくっていますね。
野口:脚本やキャラクターの性格の掘り下げ、ルック決めに時間をかけるやり方は特殊のように思いますね。ここに時間をかけられるプロダクションは少ないでしょう。100人前後のスタッフを投入して、映画 1 本を 1 年以内につくるスタイルの方が多いように思います。
八木:なるほど。僕の場合、パイロット映像、つまり試作品をつくる工程は大事にしたいのです。どこかで試行錯誤しておかないと、後で自分たちが苦労することになりますからね。ただし試行錯誤する時は少ない人数で取り組んで、コストを抑えます(笑)。
野口:パイロット映像の制作期間は、ほかの仕事も並行してなさるのでしょうか?
八木:だいたい半分くらいはほかの仕事を入れていますね。『ナキ』の時期は『うっかりペネロペ』をやっていました。監督とはいえ普通の会社員ですから、今もプロジェクトの合間はほかの仕事で埋めますし、タイムカードも押しますよ。
野口:『ナキ』の場合、一番多い時期のスタッフ数はどのくらいでしたか?
八木:多くても40人くらいですね。大人数を相手にするチェック体制はつくっていませんから。ちゃんとアーティストの顔を見ながら「こうしたい、ああしたい」って伝えていくのです。
野口:つまり制作期間は長いけれど、のべ人数はほかのプロダクションと変わらないわけですね。顔を見て話したいということは、外注は使わない方針ですか?
八木:『ナキ』では少しだけ外注の方に手伝っていただきましたが、なるべく社内でつくるようにしたいと思っています。外注するとレスポンスが悪くなりがちなので、時間がかかってしまいます。それから、特にキャラクターに関しては目の前で話すことが必須ですね。細かなニュアンスは文章に書けないし、全然伝えきれません。
野口:監督をなさる時に、自分でアニメーションも付けることはありますか?
八木:基本的に、手を出さないようにしています。やり出したら、全部やりたくなってしまいますから(笑)。それじゃ終わりませんし、僕がやりすぎると皆の達成感がありませんよね。映画は皆でつくるものだと思います。予想以上に良いアニメーションができあがる場合もあれば、そうではない場合もある。色々ですよ。ただ、自分でも操作できるというのはアドバンテージではあるので、どうしても直らない場合、特に表情付けでは手を出すこともありました。
野口:そうするとアセットやショット制作期間の八木さんの仕事は、毎朝スタッフの成果物をチェックすることですか?
八木:いえ。決められた時間に見るのではなく、スタッフには「できたら見せてね」とお願いしています。特にキャラクターに関しては、1対1で全員の仕事を連綿とチェックしていきますね。
生きていると感じられるキャラクターを表現したい
野口:『ナキ』では背景表現にミニチュアを多用しましたよね。CG ではなく、あえてミニチュアを使うことで制作期間を短くできたと別のインタビューでコメントされているのを拝見しました。ミニチュアを使うというアプローチも、白組さん特有のやり方だなと感じています。
八木:「ミニチュアをつくる方が逆に大変なんじゃないか」っていってくれる人も結構いらっしゃるんですよね(笑)。でも、ミニチュアと同レベルの情報量をもった CG をつくっていたら、もっと時間がかかってしまうと思いますね。背景は世界観や表現スタイルを決める大切な要素です。それを全部 CG でつくろうとすると、なまじ何度でも改変できてしまうがゆえに、どこに落ち着かせれば良いのか決められないと思うのです。
野口:目の前に実在するミニチュアこそがゴールだと決めて撮影して、そこに CG を合わせたと。
八木:そうです。例えば、毛先がピピンと飛び出ている、よじった紐を CG で表現しようとすると凄く手間がかかりますよね。でも、ミニチュアなら手近な紐を使って簡単につくれるわけです。しかも当たり前ですけど、フル GI(※3)ですよね。カメラに撮影するだけで、説得力のある質感の背景が表現できる。ミニチュアを使うことで、ショートカットできるものは多いような気がするのですよ。今後もミニチュアは使っていきたいですね。
※3:GI
Global Illuminationの略。大域照明と訳される。現実の世界で日常的に発生する光の複雑な相互反射を考慮して、レンダリングを行う手法。やわらかい間接光や、集光現象(コースティック)、色のついた光の反射(カラーブリーディング)などを表現できるが、計算負荷が高いためレンダリング時間は長くなってしまう。
野口:ではプレスコ(※4)についても使っていきたいと考えておられますか?
※4:プレスコ
プレスコアリング(pre-scoring)の略。映像をつくる前に、セリフを先行して収録する手法。『ナキ』では収録された役者のセリフに合わせて、CG キャラクターのアニメーションがつけられた
八木:プレスコも絶対に必要ですね。役者さんの声があるおかげで、アニメーションをつける際にキャラクターの表情が頭に浮かんでくるのですよ。
野口:プレスコ中の役者さんの顔をビデオ撮影して、アニメーションの参考にされたりはするのでしょうか?
八木:一応撮影しますけど、あまり使いませんね。
野口:声を起点に、イメージを膨らませるわけですね。でも、後からアニメーションを付けてみたら何だかしっくりこなくて、声の収録をやり直したいと思ったりしませんか(笑)?
八木:収録に立ち会って、違和感があればその場で指示を出します。それで大抵の場合は良い感じになりますね。でも、おっしゃるような場合もあるので、その時は声なしで映像をつくっておいて後でアフレコします。ただし『ナキ』の場合、アフレコが必要になったのは全体の 5 %以下でしたね。プレスコの 2 年後くらいにアフレコをやったので、役者さんたちは「2 年前の演技に、こんな画がついたんだ!」って驚かれていましたね(笑)。プレスコの場合だと、違和感があればその場で言い直してもらえますよね。でも CG アニメの場合は、修正に 1 週間近くかかることもある。レスポンスが悪いので、感情のアプローチは声からやりたいのです。作中のキャラクターの感情の流れを声でつくっておいて、そこに画を合わせていく方が 3DCG の場合は良いように思います。
野口:ミニチュアといいプレスコといい、それらは完全に白組スタイルですね。本格的に画をつくり始める前にキャストを決めて収録までやってしまうなんて、たとえ効果的なやり方だとわかっていても、そうそう実践できませんよ(苦笑)。
八木:僕が一番関心があるのは、3DCG のキャラクターたちがちゃんと生きているとお客さんに感じてもらうことなのです。もともとはただのポリゴンで実在しないものだけど、「頑張れっ!」て応援したくなったり、「ほっぺたやお尻をプニプニしてみたい」と思ったり、そんな反応をしてほしい。ミニチュアもプレスコも、存在感のあるキャラクターを成立させるうえで必要なアプローチだと考えています。
野口:加えて、先ほど話していた脚本を練ったりパイロット映像をつくりながら試行錯誤する期間も、キャラクターに命を宿すうえで非常に重要になってくるのでしょうね。
八木:そうですね。例えば『ナキ』のパイロット映像の段階では、デフォルメ具合の着地点をどこにするかで悩みました。『アバター』(2009)のようなリアルな表現も理論上は可能ですが、実践には途方もない労力が必要でレンダリング時間もかかる。そこまでリアルなものをお客さんが本当に求めているのかどうかも疑問ですよね。加えて物語の内容によっても、合うルックはちがってくると思うのです。そこで当時の山崎さんと僕は、「『スターウォーズ』とピクサー作品の間を狙おう」と話していました。若干アニメ寄りなのだけど、リアルな質感をもっているという世界観に落ち着かせたかったのです。
野口:だからミニチュアでつくったあの世界観になったと。
八木:ええ。3DCG というのは既存の色々な表現を模倣するものであって、3DCG ならではの表現というのはないような気がしているのです。だから『ナキ』の場合はミニチュアを世界観のゴールにして、そこで滑らかに動くストップモーションのような表現を目指しました。
野口:結局 3DCG は実在しないものだから、仮に 3DCG ならではの表現があったとしても、確かに認知しづらいでしょうね。『ナキ』の場合はストップモーションの模倣であっても、実際のストップモーションでは不可能な滑らかな動きを実現なさっていた。模倣のさらにその先を表現なさったから、高く評価されたのだと思います。
八木:パイロット映像の段階では、全然そこまで到達できませんでしたけどね(苦笑)。ただパイロット映像をつくったことで、どう失敗しているのかが何となく見えてきたので、本番では吸収して修正しました。
野口:僕もパイロット映像を拝見しましたが、スタートとしては十分だと思いましたよ。
八木:いえいえ全然ダメでしたよ。細かな表情や仕草のひとつひとつに実感がこもっていなかった。歩くという動作ひとつとっても、本当に歩いているように見えなかったのですよ。
野口:机の上に影が落ちているから、手を置いているように見えるはずとか、そういう問題ではないのですよね。
八木:そうです。例えばものを持つという動作でも、ちゃんとグッと力を入れて持っているのか、ゆるく持っているのか、良いアニメーションはちがいが伝わります。それを伝えるのは演技力なのですよ。「グッと持ったんだな」とお客さんに伝わるサインが明確に表現できているかどうかが重要だと思います。そういう豊かな演技を積み重ねていくことで、「凄く楽しそうな世界だなぁ」とお客さんに感じてもらえる作品ができあがると思っています。
野口:白組は一時期から、ドラマを表現することに重きを置き始めましたよね。生活感のある日常芝居が含まれた作品をつくり、演出志向のスタッフをしっかりと育ててきた。八木さん自身も、ドラマを演出することを大切になさっている。だからこそ、1 本の映画をしっかりとつくりきることができるのだろうと、そんな気がします。いい勉強になりました。今日はありがとうございました。
八木竜一:
Ryuichi Yagi
1964年生まれ。東京都出身。白組所属の映画監督/CGディレクター。1987年、白組に入社。CM・映画などのデジタルマット画やエフェクトアニメーションの制作でキャリアを積み、2000年頃からはゲームムービーの CG ディレクションにも携わる。代表作には『鬼武者2』(CG ディレクター/2002年)、『バイオハザード0』(CG ディレクター/2002年)、『クロックタワー3』(CG ディレクター/2002年)、『鬼武者3』(CG ディレクター/2004年)、『うっかりペネロペ』(演出/2006年)、『もやしもん』 (3DCG 監督/2007年)、『friends もののけ島のナキ』(山崎 貴氏との共同監督/2011年)などがある。『鬼武者3』のオープニングムービーは、SIGGRAPH 2004のElectronic Theaterに入選を果たしている。
聞き手: | 野口光一(東映アニメーション) |
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構成: | 尾形美幸(EduCat) 沼倉有人(CGWORLD) http://cgworld.jp/regular/jcg/ |
写真: | 弘田 充 |
撮影場所: | SCOPP CAFE http://scopp-cafe.com/ |