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INTERVIEW インタビュー
日本にフルCG アニメは根付くのか?
識者に聞く、和製3DCG アニメーションの未来
日本におけるフル3DCGアニメーション制作への理解と振興を目指す本連載。今回の語り手は、神風動画 代表取締役の水崎淳平氏だ。これまでにもインパクトのある映像を次々と発表してきた神風動画だったが、近年放送されたTVアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』のOPによって、その知名度はさらに高まっている。そんな神風動画を率いる水崎氏に、これまでの歩みや、同氏が見据えるCGアニメーションの未来を語ってもらった。
【聞き手:野口光一(東映アニメーション)】
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納得して正社員になったスタッフは、誰一人辞めない
東映アニメーション/野口光一(以下、野口):神風動画は起ち上げから今日までの間に着々と存在感を増し、独自の作家性を確立しておられます。今後どういう方向に進化していくのか、非常に興味があります。ぜひ代表の水崎さんにお話を伺ってみたいと思い、対談をお願いしました。早速ですが、いつ頃から水崎さんは 3DCG の道に進まれたのでしょうか?
水崎淳平(以下、水崎):大学生の頃です。ただし当時の大学には 3DCG を教えるような学科はなかったので、自分で機材を揃えて独学しました。アルバイトしてお金を貯めて、Macintosh や Amiga を買ったのです。ソフトは Photoshop や LightWave3D を使っていましたね。一方で、大学ではレイアウトやタイポグラフィ、写真、映像編集などを勉強しました。でも卒業後は、地元の京都にあった DTP 系の小さな会社に就職したのです。当時からアニメーションには興味がありましたが、そんな仕事をしている会社は周囲になかったですから。
野口:だから、神風動画というユニットを起ち上げたわけですか?
水崎:その前に、任天堂の契約社員をしていた時期がありますね。そこではキャラクターのモデリングやアニメーションを担当しました。けれど、ある日契約を更新しないと伝えられてしまい、だったら自分で仕事を受けようと神風動画を起ち上げたのです。下請けとして、ゲームの背景を作ったりしていましたね。最初は 1 人でやっていたのですが、仕事量が多くなってきたので人を増やすことにしました。間借りしていた会社がネットワークサービスをやっていて、求人サイトを運営していたのです。これ幸いと便乗し、「フリーランス、ゲーム背景のグラフィッカー募集」という主旨の広告を出しました。それを見て連絡してきたのが、桟敷大祐さん(現在も神風動画に所属)と森田修平さん(現在は YAMATOWORKS に所属)でした。
野口:京都で募集して、その 2 人がやってきたのは凄い巡り合わせですね。
水崎:インターネットが今ほど普及していない時代に、得体のしれない求人を発見して応募してくる勘の良さは只者でじゃないですよね(笑)。偶然にも森田さんは大学の後輩で、学部まで同じでした。それからは 3 人でゲームの背景や CG 素材を受注しつつ、その合間にアニメーション作品も制作しました。それが「WavyAwards`99」(ディストーム主催)で最優秀賞を獲り、自信につながりましたね。その後いったん解散し、上京して 2 年ほど STUDIO4°C に所属していた時期もありました。
野口:神風動画を再結成したのは、STUDIO4°Cを退社した後ですか?
水崎:そうです。当時は西東京市の四畳半の部屋で活動していましたね。5 人くらいで作った『ナンバーファイブ 吾』の PV が好評で、東京国際アニメフェアのクリエイターズワールドの講演に呼んでいただきました。それをきっかけに仕事の契約が複数とれたので、法人化に踏み切ったのです。2003 年に事務所を武蔵境へ移し、スタッフも 10 人近くまで増やしました。
野口:そして 2012 年以降は原宿に移られたと。今の人数はどのくらいですか?
水崎:正社員は約 20 人ですね。
野口:その間の離職率がゼロだそうですね。最初に知ったときは驚きました。
水崎:法人化して 10 年が経過し、20 人規模になっても誰も辞めていません。これは発表しても良いケースだと思ったので、最近は声を大にして言うようになりました。お陰でこの質問をされることが増えましたね(笑)。
野口:どういう採用方法を取っているのでしょう?
水崎:定期的な採用は新卒も中途も年に 1 回です。ただ、『ジョジョの奇妙な冒険』の OP を発表してから仕事の依頼が非常に増えたので、今年は急募をかけました。依頼を断らずに全部受けたら、この会社がどうなるのか、見てみたいという好奇心があるのです。
野口:毎年、求人用に凄く手の込んだ動画を公開していますよね。どのくらいの期間で作っているのですか?
水崎:2 週間くらいです。求人目当てではない人まで見てくださるので、会社の宣伝にもなっています。加えて、スタッフの実験場になっているという側面もあります。クライアントがいる仕事の場合、柵の外に出て実験をするわけにはいきませんよね。オリジナルを作る代わりに、求人動画を使って様々なテストをしているのです。
野口:採用試験はどんな内容ですか?
水崎:面接と実技です。先日実施した美術スタッフの採用の場合は、社内スタッフの写真を送り、キャラクター化した絵を描いてもらいました。等身を低くしてくださいとか、背景も描いてくださいとか、注文も加えましたね。コンポジットの採用の場合は、バラバラのマスク素材を渡し、After Effects で自分なりに組んでもらいました。
野口:デモリールを見るだけでは不十分ですか?
水崎:ええ。僕は実技を重視したいですね。入社するからには辞めて欲しくないですから、その方にとって相応しい会社か、当社にとって相応しい方か、お互いにしっかり見極める必要があると思っています。だから実技の後ですぐ正社員にするのではなく、3 ヶ月の試用期間を設けています。以前は 1 ヶ月だったのですが、「この会社を僕のいる場所にして良いのかどうか、まだ判断できない」と言われたことがあったので延長しました。そうやってお互いがに納得したうえで正社員になってもらったスタッフは、今のところ誰一人辞めていませんね。
20代でディレクターになれる仕組みを作りたい
野口:神風動画の海外展開、つまり海外での制作は考えていませんか?
水崎:僕は日本のコンテンツが好きだから、国産にこだわりたいのです。ハリウッドに対して、彼らの表現を模倣しながら真っ向から対抗するのではなく、日本ならではのテイストを武器に勝負したい。それが 15 年以上前からの神風動画のコンセプトです。だからモデリングや動画、仕上げなどを外注する場合も、海外には依頼しないというルールを設けています。ただし外国人のスタッフはいますね。今いるのはイギリス人で、韓国籍のアメリカ在住の人も最近採用しました。どちらも普通に日本語を話せます。
野口:作画部隊も社内にあるのですか?
水崎:部隊と言えるほどの規模ではないですが、例えば最近手がけた『ガッチャマンクラウズ』の OP の場合、作画の 2/3 は社内で手がけています。基本的に、イメージボードや絵コンテも社内です。企画段階から任せてもらえないと、我々の持ち味を活かせないですから。
野口:TV アニメの OP を全部社外に任せるというのは珍しいケースですよね。シリーズ専属の演出家が担当するのが一般的ですよね?
水崎:そうですね。だから TV アニメの OP を手がける機会はなかなか巡って来なかったです。『ジョジョの奇妙な冒険』が最初のケースでした。あの時は、かなりの部分を任せてもらえて「できあがったら持って来てください」という感じでした(笑)。それ以来、TV アニメの依頼も着々と増えていますね
野口:ソフトウェアは今も LightWave 3D ですか?
水崎:そうです。LightWave 3D と After Effects の組み合わせが我々の表現に一番向いているので、Maya や 3ds Max に転向する気にはなりません。ただし最近はLightWave 3D を教えている学校がないので、新卒のスタッフには入社後に基礎から教えています。
野口:作画もデジタルですか?
水崎:そうです。タブレットで描いていますよ。若い世代は、紙に描く場合とデジタルで描く場合の違いを意識しない人が多いですね。入社する前からパソコンや CG に慣れ親しんでいるので、紙の使用率はかなり減りました。CG と作画を混ぜることにも抵抗感はないようです。
野口:水崎さん流の画作りを修得したスタッフが、いずれは独立して新たな会社が派生するかもしれないですね。
水崎:その可能性はゼロではないですが、僕は独立志向の強い人は採用しないのです。ずっと神風動画で働きたいと言ってくれる人だけを採用しています。離職率ゼロの背景には、そういう理由もあるのですよ。
野口:女性スタッフが多いという話も聞いていますが、何割くらいですか?
水崎:4 割くらいです。「結婚してお子さんを持った後も、ちゃんと家庭を満足させながら働けるスタイルを取っているから安心して来てください」というメッセージを発信しているせいか、応募してくる人も女性が多いですね
野口:外国人のスタッフがいて、若いスタッフもいて、女性スタッフもいる。色々な価値観を持ったスタッフを統率するのは大変でしょう。
水崎:親が転勤族で子供の頃から引っ越しを繰り返していたので、まったく違う価値観を持った人の輪に入っていくことには慣れています。他業種の方と一緒に仕事をする場合にも、その経験が役立っていますね。例えば石川県民と埼玉県民では、考え方がまったく違います。グローバルな視点、一歩引いた視点で、人それぞれの考え方を受け止める姿勢が身に付いているのは、アドバンテージになっていると思います。
野口:スタッフの多様性が増したお陰で、神風動画の表現の幅も随分と広がりましたね。
水崎:今はディレクターが 4、5 人いて、それぞれが違う作風を持っていますからね。依頼内容に合わせて仕事を割り振ったり、組み合わせたりしています。
野口:採用する時点で、ディレクターを目指すよう勧めているのですか?
水崎:僕から何かを勧めることはなく、本人の意志を聞きますね。ただし「仕事をやっていくうちに別の仕事の面白さに目覚めるかもしれないので、その場合は言ってね」と伝えています。
野口:ディレクターになる人もいれば、アニメーターとして活躍する人もいるわけですね。ディレクターになるまでには、どのくらいの期間がかかるのでしょうか?
水崎:わりと短いですよ。平均すると 2 年くらいですね。モデリング、テクスチャ、コンポジットなど、ひと通りの手順を経験したらディレクションに挑戦してもらっています。神風動画では、20 代でディレクターになれる仕組みを作りたいのです。作画アニメの世界だと、動画で 3 年、原画で 4 年、作画監督で何年といった下積みを経験しないとディレクターになれませんよね。だからどんなに若いディレクターでも、せいぜい 30 代の中盤でしょう。僕は 20 代で神風動画を作りましたが、当時も今もアニメ業界の仕組みでは 20 代のディレクターは誕生しません。でも、アニメの視聴者には 10 代や 20 代が多くいるわけですから、20 代が作る映像も見てみたいという思いが強くありました。だから『ジョジョの奇妙な冒険』の 2 本目の OP や、『ガッチャマン クラウズ』の OP のディレクターは 20 代なのですよ。
野口:20 代のディレクターは何人いるのですか?
水崎:まだ 1 人です。でももう20代後半になってしまいました(笑)。時間が経てば人は歳をとりますからね。これからは、もっと 20 代のディレクターを増やしていきたいです。若いということは、それ自体が個性になり得ると思っていますから。
スタッフの待遇と作家性は両輪で維持していくもの
野口:若い人がディレクターをした場合、「俺にも完成前に見せろよ」と思いませんか?
水崎:最初は思いましたし、実際に見て意見を言うこともありました。でも最近は全面的に任せていますね。見てしまうと、結局は 40 歳近い人間の意見が入ることになってしまいます。最近はオンエアで初めて見ることだってあります(笑)。
野口:でも心配じゃないですか?神風動画という看板を背負って外に出るわけですから。
水崎:もちろん社内的には失敗もあります。予算面だったり、他のスケジュールに食い込んでしまったりというクライアントに影響の出ない範囲の失敗ですが。でも失敗も含めて、必要な経験なのですよ。若手が自信を持って良いものを作るためには、上の人間が立ち去ることが大事だと思っています。神風動画の目標は、若くて新鮮で斬新な切り口の映像を世に送り出していくことです。いつまでも僕が上に居座っていると、会社の目標と矛盾してしまうわけですよ。先日 NHK さんの取材があった際にも、僕は出ずに若手に対応してもらいました。「君が語る内容が神風動画なんだよ」と言ってね。
野口:凄いですね。「最初に作ったのは俺だっ!」と言いたくなりませんか?
水崎:恵まれたことに、彼らは僕が作ってきた映像が好きで、それをリスペクトして神風動画の門を叩いてくれています。だから彼らが解釈した神風動画が、僕の思いと大きく乖離することはないのです。
野口:一方で、今も水崎さんが作る場合もあるのですよね?
水崎:新しいジャンルや切り口の映像は僕が作りますね。例えば『ジョジョの奇妙な冒険』の OP は初の TV アニメだったので、1 本目は僕が担当しました。
野口:現在の神風動画は短編映像だけを扱っていますが、今後水崎さんが長編を制作する可能性はありますか?
水崎:長編を作ることで、今の会社の待遇や環境が崩れるのであれば作りたくないですね。スタッフ全員が平日だけ出社して、しかも定時に帰ってもおかしくない待遇と、自宅で自分の時間を持てる環境は絶対に守りたいのです。そのうえで、どれだけ制作の幅を広げられるかに挑戦したいと思っています。
野口:納品直前は大変ではありませんか?
水崎:それでも計画的にやっています。絶対に無茶はしないように、納品の 2 週間前に終わらせるスケジュールを組んでいます。余ればクオリティアップのために使うし、押したら間に合わせるために使います
野口:非常に計画的ですね。小学生の頃は、夏休み開始早々に宿題を終わらせていたタイプでしょう(笑)?
水崎:楽しい教科だけさっさと終わらせて、嫌いな教科は親にやってもらっていました(笑)。
野口:社内にプロデューサーはいらっしゃいますか?
水崎:ラインプロデューサーが 2 名と、見習いが 1 名います。彼らがスケジュールを死守するために頑張ってくれています。どちらかと言うと、僕はスケジュールを延ばしてしまう方なのです。だから武蔵境に引っ越して法人化した段階で、ラインプロデューサーを入れましたね。「僕を怒るのが君の役割だから」とお願いして、以来 10年間怒られ続けています。
野口:そうやって、クリエイティブと会社経営のバランスを取っているわけですね。
水崎:帳簿の数字を見る部分に関しても、別の人にお世話になっています(笑)。
野口:Web サイトにも「電話は7時まで」と書いてありますよね。あれも凄い。8時に電話が来たらどうするのですか?
水崎:電話がならない時間が欲しいのですよ。新規の方は守ろうとしてくれますが、馴染みの方はWEBサイトを読んでいないので (午後)11 時にかかってくる場合もありますね。僕たちがその時間までいることは少ないですが。
野口:就業時間は何時ですか?
水崎:通勤ラッシュに揉まれるのが嫌なので、10 時半〜 19 時半にしています。ただ、早く来たい人と遅く来たい人がいるので、最近はフレックスにすることも考えていますね。こういった待遇面での見本になることが、当面の僕の役割だと考えています。徹夜をせず、スタッフをちゃんと家に帰して、離職率も低く、清潔な会社。そんな会社がたとえ 1 社でもあれば、そうではない会社のスタッフが「なぜ僕は帰れないのですか?」という疑問を口にしたときに、「CG 業界では、それが当たり前だ」という上司の言葉にちゃんと反論できますよね。実践している会社が存在すれば、できないという言い訳は崩れると思うのです。
野口:素晴らしい挑戦ですね。神風動画が待遇や環境の維持を当面の目標にしていることは理解できました。では一方で、作家としての水崎さん個人は今後どのような方向を目指したいですか?
水崎:待遇面で妥協しないという目標と、僕自身の作家性は密接にリンクしているのです。他の会社と同じような表現や作風の映像を作っていたら、より安い方にクライアントは流れますよね。値引き合戦になってしまい、待遇も悪くなります。待遇を保つためには、より個性的でいる必要があるのです。待遇と作家性というのは、両輪で維持していくべきものだと思っています。良い待遇や環境を保つために、他がやらない切り口や表現に真っ先に取り組む会社であり続けたいですね。
野口:今度はどんな映像を見せてくれるのか、今日のお話を伺ってさらに期待が膨らみました。本日は有難うございました。
- 水崎淳平:Junpei Mizusaki
- 1973 年生まれ。京都造形芸術大学 情報デザイン学科卒業。DTP、ゲーム、アニメーション業界を経て、2003 年に有限会社 神風動画を設立。遊び心とスタイリッシュな映像センスが一体となった作家性を武器に、アニメやゲームの OP 映像、ミュージックビデオ(MV)、CM などの短編映像を制作している。座右の銘は「妥協は死」。代表作に、ドラマ『彼岸島』OP(2013)、NHKみんなのうた『図書館ロケット』(2013)、TVアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』OP(2012 ~ 2013)、EXILE『BOW & ARROWS』MV(2012)、『ドラゴンクエスト IX 星空の守り人』OP(2009)などがある。
INTERVIEWER : | 野口光一(東映アニメーション) |
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EDIT : | 尾形美幸(EduCat)、沼倉有人(CGWORLD)http://cgworld.jp |
PHOTO : | 弘田 充 |
LOCATION : | 神風動画 |